山本たかしの政務調査ニュース

“世界有数の港湾都市をめざす”『横浜港の発展』と世界情勢

■横浜港の港勢

 2050年カーボンニュートラルをめざす日本のカギを握っているのが『港』です。私たちの暮らしや経済活動は、毎年約3億トンの原油や石炭などの「化石燃料」を海外から輸入し、臨海部でエネルギーや鉄などの基礎素材を加工し、供給することで成り立っています。今後は、これらを水素などの脱炭素燃料に転換していく必要があり、その際、『港』は、エネルギーをはじめとする輸出入物資の供給網の拠点であると同時に、全国のCo2排出量の約6割を占める発電所や鉄鋼、化学工業などが立地していることから、『港』が率先して脱炭素化への取組をすすめることが重要となります。主要な船会社を含む世界のグローバル企業は、環境やSDGsへの関心が高く、横浜港が「選ばれる港」であり続けるためには環境に配慮した港湾機能の高度化に取り組む必要があります。

 また、国内物流においても「物流の2024年問題」によって、“トラックから海上輸送へ”モーダルシフトが加速します。(参考:「物流の2024年問題」とは、働き方改革関連法によって、2024年1月から「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用(時間外労働が年間960時間Max.)されることから大量・安定輸送が可能な海上輸送へシフトが期待されます。)

■コンテナの大型化へ対応する横浜港の機能強化

 横浜市では、カーボンニュートラルポート(CNP)の実現に向け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受託した水素利活用の検討調査をすすめ、昨年11月には、ENEOSと水素サプライチェーン構築に向けて連携協定を締結しました。
今年5月には、環境負荷の低いアンモニア燃料タグボートの受入や燃料供給について、日本郵船、IHI原動機、(一社)日本海事機構と覚書を交わしました。
 1859年の開港以来、横浜港は、ヒト、もの、文化の交流の場として発展してきましたが、経済波及効果は、市内所得の32.1%、市内雇用の30.8%と大きなウェイトを占めています。

■クアッド(Quad)体制と横浜港の安全保障

 ロシアのウクライナ侵攻によるグローバル・サプライチェーンの分断が世界経済を大きく混乱させています。国際社会が「分断の危機」にあるといっても過言ではありません。
 2016年8月、安倍首相は外交方針で、インド洋と太平洋、アジアとアフリカを繋ぐことで国際社会の繁栄や安定の実現を目指す「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱しました。クアッド(Quad)は、「日米豪印戦略対話」と呼ばれているもので、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で構成される多国間枠組みを意味します。

「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、ワクチン、インフラ、気候変動、重要・新興技術など幅広い分野で、日米豪印の4ヵ国での協力体制を構築することを目的としています。「自由で開かれたインド太平洋」という概念には、協力的側面と競争的側面があります。協力的側面とは、台頭する中国を組み込み、諸外国が一体となってその実現を目指そうとするもので、競争的側面とは「中国に対抗しよう」とするものです。
 中国は長年フィジーやトンガ、ソロモン諸島など南太平洋島嶼国へ多額の経済支援を行うなどして影響力を高め、今年4月には、国交を持つソロモン諸島と安全保障協定を締結しました。アメリカやオーストラリアなどはその締結に強い警戒感を滲ませています。このことから、クアッド(Quad)は、対中包囲網的な側面が政治的に強くなっています。クアッド(Quad)と中国との競争が激しくなれば、必然的に日中貿易関係にも影響を及ぼします。
 一方、横浜市は今年7月にプレスリリースを行い、8月にインドのムンバイ事務所をタイ・バンコク市へ移転し、「横浜市アジア事務所」を開設すると発表しました。そして、「横浜市アジア事務所」開設に向けた経済分野連携に関して、横浜市長とタイ王国工業省産業振興局長とが覚書を交わしました。
 わが国は横浜港を通じて世界の国々と多国間貿易を行っており、中国とは、まさに協力的かつ競争的パートナー関係を維持しています。しかし、今後の日本企業の海外事業における最重要・新技術には、人口知能(AI)、5G、半導体などがあり、クアッド(Quad)4か国のグローバルでの一層の協力連携関係が強く求められます。一方、「横浜アジア事務所」を通じ、東南アジア諸国へ事業展開をする市内企業にとって、中国との関係を考慮しなければなりません。横浜港にとっても、こうした懸念材料を認識し、横浜港の経済安全保障・保安対策の強化をすすめることが必要です。