山本たかしの政務調査ニュース

横浜の観光MICE 戦略の柱IR(統合型リゾート)誘致断念

2021年9月1日 観光MICE 

超高齢社会・人口減少時代の税収不足をカバーする財源確保策は、「白紙」となりました。

 8月22日の横浜市長選挙で、「IR 反対」を掲げて立候補した山中竹春氏(元横浜市立大学教授)が、50万6392票を獲得し、現職で4期目挑戦の林文子市長を退け初当選しました。山中竹春氏が当選したため、これまで横浜市が将来の超高齢社会、人口減少時代の税収不足に備え、新たな財源確保策として推進してきたIR(統合型リゾート)誘致の取組は、事実上消滅しました。
 今回の市長選挙戦は、新型コロナウィルス(デルタ株)感染拡大が急速に進む中で行われましたが、自称、『コロナの専門家』として立候補した山中竹春氏に、市民の期待が集まったことから、山中竹春氏の圧勝に終わりました。しかし、今後の具体的なコロナ対策については示されておらず、その手腕は、未知数です。
 これまでも政府は新型コロナウィルス対策特別措置法の下、都道府県自治体と連携し、感染拡大防止に取り組んでおり、医療施設や医療人員の確保ならびにワクチン接種体制の整備など、一定の成果を上げてきました。またコロナ禍にあって、大きな被害を被っている飲食業を中心としたサービス産業の経営の維持に向け協力金や事業継続融資などの支援をすすめてきています。
 こうした取組は今後の引き続き行っていく必要があります。「コロナの専門家」として、新たなコロナ対策メニューをどうつくっていくのか、山中新市長の言動をおおいに注目したいと思います。

◆コロナ禍にあって減少する横浜の税収

 IR(統合型リゾート)誘致を中止したことで、林文子前市長がすすめてきた超高齢社会・人口減少時代における税収不足をカバーする新たな財源確保策についてどうするのか、全くの白紙です。
 横浜市の税収総額はコロナ禍にあって8000億円を割り込んでいます。そのうち個人市民税(住民税)が4000億円、税収総額の50%を個人市民税が占めるのは、東京都のベッドタウンとして発展した横浜市の特徴です。一方で、法人市民税は毎年およそ500億円を維持していましたが、昨年からのコロナの影響で法人の事業収益が減少し、今年度は320億円にまで落ち込む見込みです。令和4年度の法人市民税収もさらに減少することが予測されます。
 また、近年の歳出増による収支不足をカバーする財源が見当たらず、市債発行も将来の借金を増やすため望ましくありません。

◆ IR で目論んだ法人税収1000億円に代わる税収増には、経営の観点での戦略的施策が必要。

 横浜市民は、コロナ禍の現在、そしてアフターコロナ時代の安全安心の暮らしを求めており、そのためには、安定した財政基盤を確立しなければなりません。財政の健全化を図るためには、持続可能な横浜の成長を促し、安定した税収を確保する施策が必要です。IR(統合型リゾート)でその可能性があったわけですが、それを断念した今、新たな成長戦略と財源をつくらねばなりません。
 横浜市民にこれ以上の増税を課すことはできませんし、法人に対しても過分な増税をすれば、せっかく横浜に進出してきた企業が、横浜から逃げていってしまいます。企業が魅力や事業可能性を感じ、投資をする意欲を引き出す魅力ある都市戦略をつくることが横浜の「都市としての生き残り」につながります。

◆新市長の「3つの0」に対する疑念

 山中竹春新市長が選挙公約に掲げた「3つのゼロ」について、少し疑念があるので触れたいと思います。  一つ目は、敬老パス自己負担ゼロ(75歳以上)についてです。70歳以上の高齢者を対象に所得に応じて一定額を支払うと市内のバスや地下鉄が乗り放題となる敬老パス制度がはじまったのは1974年でした。高齢者になってもだれもが元気に街に出ることが健康につながるとして導入された制度ですが、1974年当時は、利用者が7万人弱でした。それが2018年には40万人を超え、2025年には45万人に達すると推定されています。現在の制度で、一人あたりバス乗車回数を月15回と想定し、市がバス事業者に支払っている助成金が99億円ですが、実際には月25回乗車しているという実態も浮き彫りになってきています。実績換算すると市が支払う助成金は186億円に膨れ上がります。こうした負担を軽減すべく、敬老パスの交付年齢を75歳まで引き上げるとする案もありますが、現状維持を求める声もあり、市民の理解、納得を得ることはそうたやすくありません。さらに全員無償化ともなれば、さらに市の助成金負担が増え、今後財政をひっ迫させる新たな要因ともなるでしょう。
 横浜市が、「高齢化時代(65歳以上の高齢者が人口の7%以上)」を迎えたのが1985年(昭和60年)、「高齢時代(65歳以上の高齢者が人口の14%以上)」は2001年(平成13年)から、急速に高齢社会が到来しています。2025年(令和7年)には団塊の世代の方々が後期高齢者となり、いよいよ横浜市の高齢者人口は100万人を超えてしまいます。
 超高齢社会の社会保障サービスの維持するためにはその原資となる財源が不可欠です。この解決策がなく、やみくもに選挙公約で市民に約束することは、まさに「公約違反」と言われかねません。
 二つ目は、小児医療費ゼロ(0歳から中学生)です。小児医療費助成は、子どもの病気やケガで医療機関に受診したときに、年齢の応じ保険診療の自己負担額を助成する制度です。現在は保護者の所得制限によって対象外となるケースがあります。自治体間でもさまざまな状況ですが、横浜市においては、小児医療費助成を中学3年生まで完全実施することが必要であり、今後、所得制限撤廃ならびに一部自己負担額の撤廃を求めていく必要があります。しかし、この財源に対する将来試算や少子化対策全体の中で、何を優先順位とするか十分な検討が必要です。  三つ目は出産費用ゼロ(基礎的費用)です。厚生労働省の資料では、2019年度の入院分娩費用は全国平均で約460,217円ですが、横浜市では、国民健康保険加入者が出産したときに出産育児一時金として42万円が支給されますので、特段の事情がない限り、すでに出産費用ゼロは実現されています。すでに実施している福祉サービスに対して、選挙公約に挙げる理由については確認する必要があるでしょう。

将来の財源確保策は、やはり、「観光MICE」です。

 378万人口を擁する横浜市は、少子高齢化・人口減少時代を迎え、直面する社会課題を克服し、「次なる成長」を確保するために、『都市の活力』を何に求め、その実現に向け、どのような戦略で横浜市というメガシテイのマネジメントをすすめていくのかが問われています。
 『広域ツーリズムにおける地方都市間連携』がますます重要となります。
 横浜市が野村総合研究所に委託した観光MICE戦略策定に向けた調査データを紹介します。

  1. コロナ禍にあって急激に落ち込んだ日本人観光客数は、2030年には約5億2000万人と推計
  2. 訪日外国人観光客数は、2030年には約5180万人と想定され、コロナ禍前の2019年の3190万人に比べ、約1.6倍に急回復する。特に東アジア地域(中国・韓国・香港・台湾)からの観光客は3670万人で、約70% を占める。
  3. 観光資源の絶対数の少なさ/ アイデンティティとなりうる観光資源が不足/ 対外国人観光客に対する 「日本らしい」コンテンツ不足/ 外国人観光客のニーズが高い ナイトタイムコンテンツ不足/ 横浜でしか体験できない観光コンテンツの乏しさ など
  4. 訪日外国人の日本へのニーズ(四季の体感/ 美術館・博物館・動植物園・水族館/ 日本食/ 日本の歴史・伝統文化体験/ スポーツ観戦(相撲・サッカー等)/ 温泉入浴 等
  5. 訪日外国人の旅行情報源は、圧倒的にスマートフォン(81.2%)
  6. もともと個人海外旅行(FIT)が多かった欧米豪に加え、アジア旅行者のFIT 化が進み、OTA(Online Travel Agent)経由での購入増加が予想され、対個人へのプロモーションが重要。
  7. Web サイトやSNS のアクセスデータ等を活用したプロモーションが大きなカギを握る。

地域の多様な関係者を巻きこみ、合意形成を図りながら戦略的に観光MICEをけん引する組織の確立が必要であり、横浜が他の自治体と連携・協同してDMO(※)を組織化することである。

※ DMO: 観光物件、自然、食、芸術、風習、風俗など地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域づくりを行う法人のこと。Destination Management Organization